産婦人科の待合室。
私は失意の中、ぼんやりと
たたずんでいました。
「やっぱり駄目だった・・・」
『今回で最後』そう思って望んだが
私たちのところには、
コウノトリはやって来ては
くれなかった。
三年間必死で不妊治療を続けたが、
我が子を授かる事は叶わなかった。
「この三年間って何だったんだろう…」
空しさだけが心に残った。
『帰らなきゃ…』そう思った時、
待合室に居る女性達から
「ほらあれ~っ、わ~かわいい!」
と言う歓声が上った。
『何だろう?』みんな中庭を見ている。
私は立ち上がって、中庭に面した
大きなガラスの前に行ってみた。
そこには、子育てに奮闘する
母猫の姿があった。
生後1ヶ月くらいだろうか、
5匹の子猫達が母猫の心配をよそに
あっちヘ、ちょろちょろ、
こっちへ、ちょろちょろ。
その度に母猫は子猫を咥えて
中庭にある古い物置小屋に連れ戻す。
『その光景は、ここに居る女性達に
とっては最高のプレゼントであろう。
でも・・・』
すると受付の女性が「会ってみますか」と、私に声を掛けてきた。
私は思わず「えっ」と声が出た。
「大丈夫、あのママとは友だちだから」
そう言って、受付の女性は
大きなガラス戸を開けた。
母猫はガラス戸を開ける音に
気づいて駆けよって来た。
「ニャーン」少し小柄の母猫は
私に挨拶をしてくれた。
初めて会う私に
愛想良く「ニャ~ン」と…。
受付の女性は
「気に入られたみたいですね」と言い、
ニッコリ笑ってその場を離れた。
私はしゃがんで
「すごいね、こんな小さな体で
沢山の命を生み出したのね。
私はあなたより何倍も大きいのに、
たった一つの命を生み出す事も
出来ないの。
情けないね、同じ女なのにね…」
そう言うと、涙が溢れた。
次の瞬間ヒザに何かが触れて
『えっ⁉』と思ったら、頬に何かが…
母猫は私の頬の涙を、
一生懸命舐めてくれていた。
それはまるで「どうしたの?大丈夫。
ママはここに居るわ」と、
そう言っているようでした。
私は母猫に「ありがとう、もう大丈夫」
と、笑顔で告げた。
母猫は「ニャッ」と短く鳴くと
子供達の所へ帰って行った。
『なんて優しい目なんだろう。
あれがお母さんの目なのかな』
そう思った瞬間、
私の中で何かがはじけた。
『私もあの母猫のようになりたい、
いや、なれる!』何故かそう思えた。
私はその日もう一度診察室に入り、
先生と今後の事を相談した。
「あせる気持ちは分かりますが、
自分を追い込んではいけません。
少し不妊治療を休んで自然に
任せましょう」先生は私に
そうアドバイスしてくれた。
なんだか、晴れ晴れとした気持ちで
帰宅して、仕事から帰って来た夫に
今日の出来事を話した。
「そうだね、もう少し楽に考えよう
授かり物なんだから」そう言って
夫は、優しく肩を抱いてくれた。
その日、私は久しぶりに
穏やかな気持ちで眠りに就いた。
すると、不思議な夢を見た。
それは中学生くらいの女の子と
歩いている夢。
一緒に服を選んだり、
スーパーで夕飯の食材を買ったり、
それは、親子と言うより、
姉妹のような楽しい女子トーク。
まるでビデオでも見ているかの
ような、鮮やかな夢だった。
朝、目を覚ました私は確信した。
『私は、女の子のママになるんだ!』
夫に話すと
「正夢だよ、きっとそうだよ」
そう言って喜んでくれた。
それから数ヶ月後、身体に変化が…。
病院へ行き調べてもらったら、
「良かったですね、コウノトリさんが
やっと来てくれましたよ」
そう言って先生は
満面の笑みで祝福してくれました。
すっかり顔なじみになっていた
看護師さんや受付の方も
みんなで喜んでくれたのです。
「さあ、これからが本番、全力で
サポートしますから頑張りましょう」
ベテランの看護師さんが
力強く言ってくれました。
その言葉が嬉しくて泣きました。
主人も涙しながら喜んでくれた。
ここまでが大変だったのだから、
出産まではさぞかし大変だろうと
私は腹をくくった。
が、しかし、
『いままでの苦労は何だったのか』
と思えるくらい順調に女児を出産。
先生や看護師さんから「こう言う人
ばかりならこの商売も楽ですよ」
そう言われる程だった。
それから10数年後…
夢で見たあのシーンは現実になった。
娘と二人で仲良く買い物に行く。
ただ服の好みは、私がカワイイ系で
娘はチョット大人っぽい系。
意見はぶつかるが
それも楽しい女子トーク。
ところで、娘には軽いアレルギーが
あり、大事をとって
ペットは飼っていなかった。
しかし先日、娘の主治医から
「もう大丈夫!」とOKが出たので、
近々、猫を迎え入れる予定。
夫は味方が欲しいので「猫は
男の子にしよう」と言っているけど、
私たちに「ダメ、女の子にする!」
と言われてガッカリしている(笑)。
『過去に里親募集したときの保護子猫たち、全ての子猫ちゃんに里親さんが見つかりました(*^^*)』
今日の動画は、菅野裕之さんのお話を元に動画を作成いたしました。 菅野さん、お話提供ありがとうございました。m(__)m ※補足情報です。(ボク(豆父)が本編に入れ損ねました。(*´Д`) ヤッチマッタナァ ) お話の中のお母さん猫は子育てを終えると一旦他へ行ってしまいましたが、翌年また戻って来て同じく5匹の子供を出産、最初の5匹も2度目の5匹も全て里親さんを探してもらって頂いて幸せに暮らしているそうです。 そしてお母さん猫は、病院の先生の家の飼い猫になり今も元気に暮らしています。 動画の猫はうちの近所の地域猫たちです。 私たちの動画で地域猫への理解が広がってくれると嬉しいです。 |
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